大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)128号 判決 1998年7月03日

上告人

住銀保証株式会社

右代表者代表取締役

木村進一

右訴訟代理人弁護士

中務嗣治郎

岩城本臣

森真二

村野譲二

加藤幸江

安保智勇

浅井隆彦

中光弘

中務正裕

中務尚子

宮塚久

生口隆久

被上告人

株式会社きんきファイナンス

右代表者代表取締役

藤澤文典

右訴訟代理人弁護士

宅島康二

被上告人

株式会社近畿銀行

右代表者代表取締役

龍頭弘司

右訴訟代理人弁護士

木原邦夫

木原康子

山口忠文

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人中務嗣治郎、同岩城本臣、同森真二、同村野譲二、同加藤幸江、同安保智勇、同浅井隆彦、同中光弘、同中務正裕、同中務尚子、同宮塚久の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  阪口昇平は、第一審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上にある同3の建物(以下「旧建物」という。)を所有していたが、平成元年一一月二五日、旧建物を取り壊し、同二年五月一〇日、本件土地上に同2の建物(以下「新建物」という。)を建築した。

2  阪口は、上告人及び被上告人らに対し、本件土地、旧建物及び新建物に次の内容の抵当権を設定し、右各設定日にその旨の登記がされた。

(一)  本件土地

(1) 平成元年八月三一日 上告人の阪口に対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とする抵当権(順位一番)

(2) 同年九月二〇日 被上告人株式会社近畿銀行(以下「被上告銀行」という。)の阪口に対する銀行取引により生ずる債権等を被担保債権とする根抵当権(順位二番)

(3) 同年一一月一七日 被上告人株式会社きんきファイナンス(以下「被上告会社」という。)の阪口に対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とする抵当権(順位三番)

(二)  旧建物

同年八月三一日 上告人の阪口に対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とする(一)(1)との共同抵当権(順位一番)

(三)  新建物

(1) 同二年一〇月三日 被上告会社の阪口に対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とする(一)(3)との共同抵当権(順位一番)

(2) 同日 被上告銀行の阪口に対する銀行取引により生ずる債権等を被担保債権とする(一)(2)との共同根抵当権(順位二番)

(3) 同三年一二月二六日 上告人の阪口に対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とする(一)(1)との共同抵当権(順位三番)

3  被上告人らは、平成三年二月八日、本件土地についての2(一)(2)の根抵当権と2(一)(3)の根抵当権の順位を変更する旨の合意をし、その登記がされた。

4  本件土地及び新建物について、上告人の申立てにより不動産競売手続が開始され、執行裁判所は、これを一括して売却し、新建物のために旧建物を基準とした内容の法定地上権が成立することを前提に、本件土地の価額は更地価額から右法定地上権価額を控除した価額、新建物の価額は新建物自体の価額に右法定地上権価額を加算した価額であるとして算出した額に基づき配当表を作成した。

二  本件は、上告人が、新建物のために法定地上権は成立しないとして、本件配当表のうち配当額の変更を求める配当異議の訴えであるところ、原審は、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却した。

旧建物が取り壊され、新建物が再築された時点において、新建物について旧建物を基準とした内容の法定地上権がそのまま存続付着し、本件土地は右法定地上権を引き続き負担していると解するのが相当である。したがって、新建物のために法定地上権が成立することを前提に作成された本件配当表に誤りはない。

三  しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である(最高裁平成七年(オ)第二六一号同九年二月一四日第三小法廷判決・民集五一巻二号三七五頁、平成五年(オ)第二一七二号同九年六月五日第一小法廷判決・民集五一巻五号二一一六頁参照)。これを本件について見ると、上告人は、本件土地及び旧建物に順位一番の共同抵当権の設定を受けることによって本件土地及び旧建物の価値全体を把握していたが、新建物に設定を受けた上告人の抵当権は、被上告人らの根抵当権に劣後する順位三番であって、新建物のために法定地上権が成立するとすれば、本件土地全体の価値を把握していた上告人の権利を害することになるから、右の特段の事情がある場合には当たらず、新建物のために法定地上権は成立しないというべきである。そうすると、新建物に設定された抵当権によって把握される担保価値は、法定地上権のない新建物自体の価値にすぎず、本件土地全体の担保価値は、本件土地に設定された抵当権によって把握されているのであるから、本件配当において、新建物について順位一、二番の根抵当権を有する被上告人らは、新建物自体の価値について上告人に優先して配当を受けることができるにすぎない。したがって、これと異なる原審の判断には民法三八八条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よって裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大西勝也 裁判官根岸重治 裁判官福田博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例